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日本のデザインアーカイブの実態調査

どうなっているの?この人たちのデザインアーカイブ

DESIGN ARCHIVE

日本デザイン団体協議会(D-8)

 

インタビュー:2017年11月16日(木)
※ミーティングへのオブザーバー参加:(※2018年1月〜12月)
取材場所:丹青社
取材先:洪 恒夫さん(ジャパンデザインミュージアム設立研究委員会 委員長/一般社団法人日本空間デザイン協会 理事)
浅香嵩さん(公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会 監事)
インタビュアー:関康子、涌井彰子
ライティング:涌井彰子

Description

概要

日本デザイン団体協議会(D-8)は、経済産業省が所管するデザイン8団体*の情報交換の場として1966年に発足した連合組織で、各団体の代表者による年2回の運営会議のほか、二つのワーキンググループを立ち上げ活動している。その一つが知的財産としてのデザインの地位確立を目指すために発足した「デザイン保護研究会」(1993年~)。もう一つが、「ジャパンデザインミュージアム設立研究委員会」(2006年~)である。これらの活動すべてにおいて、八つの異なる分野(空間、インテリア、プロダクト、グラフィック、パッケージ、サイン、クラフト、ジュエリー)のデザイン団体が、互いの領域を越え、デザイン業界の全体の課題を解決するための活動を行っている。
今回は、ジャパンデザインミュージアム設立研究委員会のメンバーである洪恒夫さんと浅香嵩さんを訪ね、委員会設立の経緯やこれまでの活動について話をうかがった。また、2019年1月25日からJIDAミュージアム in AXISで開催される「ジャパン デザインミュージアム構想」の研究発表会とワークショップの準備に向けたミーティングにもオブザーバーとして参加させていただいたので、その進捗状況についても合わせてレポートする。

* 所属する8団体は、以下の通り。
一般社団法人日本空間デザイン協会(DSA)
公益社団法人日本クラフトデザイン協会(JCDA)
公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会(JIDA)
公益社団法人日本パッケージデザイン協会(JPDA)
公益社団法人日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)
公益社団法人日本インテリアデザイナー協会(JID)
公益社団法人日本ジュエリーデザイナー協会(JJDA)
公益社団法人日本サインデザイン協会(SDA)

 

 

日本デザイン団体協議会(D-8)

Report

レポート

デザインミュージアムの重要な役目は、
クリティックしていく場をつくること

ジャパン デザインミュージアム設立研究委員会の設立の経緯

総合的なデザインミュージアムをもたない日本は、自国のデザインの保存・研究が世界に大きく後れをとっている。こうした問題に向き合うため、2006年に発足したのが「ジャパン デザインミュージアム設立準備委員会」である。
委員会発足のきっかけは、2003年、経済産業省に設置された「戦略的デザイン活用研究会」で取りまとめられた「競争力強化に向けた40の提言」であった。この提言の39番目には「デザインミュージアム設立を通じた多様で優れたデザインに触れる機会の充実」と記されている。しかし、ミュージアム設立に向けた動きは遅々として進まない。そこで、経産省傘下のデザイン団体の集合体である日本デザイン団体協議会(以下、D-8)のメンバーが手を結び、デザイナーの立場から声を上げ「ジャパンデザイン」の研究を推進することにしたのだという。
「人、モノ、組織など、さまざまなものをつなげるプラットフォームであることがデザインミュージアムの一番大きな役割」と洪恒夫さん。多様なデザイン領域を網羅するD-8という組織が一つにつながれば、いろいろなことが始められると考えたのである。

 

デザインミュージアム実現に向けたビジョンとステップ

デザインミュージアムの実現という目標を掲げたものの、領域の異なる八つの団体が足並みをそろえて連携するのは容易なことではない。「基本は手弁当の活動なので明確な旗印があるわけでもありませんから、初めは団体によって温度差がありました。それで、みなが集まることで生まれる効果についてイメージを描くことにしました」(洪さん)

D-8

 

まず、ミュージアムの基本となる「調査・研究」「収集・保存」「展示」「普及・啓発」という四つの機能を、さまざまなデザイン領域に当てはめることで、オールラウンドに整備された施設ができる。そうした施設ができれば、さまざまなステークホルダーとのネットワークがつながり、互いに便益を受けることができる。
「あくまで理想中の理想として私が描いたものなのですが、これなら自分たちも関わり合いがあると思ってもらえたことで8団体のメンバーが同じ方向を見ることができるようになりました」(洪さん)。
そしてさらに、この理想を少しずつ現実に近付けるために四段階のプロセスを設けた。第一段階はミュージアムのコンセプトや事業方針を確定しながら、コンテンツの実態調査を行う「リサーチ」。第二段階はパイロットプランによる展示・普及活動や、デジタルアーカイブを構築する「パイロットミュージアム」の実現。さらに次の段階でミュージアムを視野に入れた企画展を行う「スモールミュージアム」を開催し、調査・研究機能の充実を図る。そして、最終的には日本のデザインの創造拠点となるミュージアムを設立しようというものだ。
「一足飛びにはできないので、ステップバイステップでやろうと。まずは調査から始め、その後に試しのパイロットミュージアムを何回かやれば、本格的なミュージアムとは行かないまでもスモールミュージアムくらいならつくれるかもしれない。そして最後は胸を張ってデザインミュージアムだと言えるものにもっていこうと。そんなプロセスを描きながらスタートしました」(洪さん)

D-8

 

リサーチの実施と研究発表

2007年には、「日本のデザインミュージアムを考える」と題したフォーラムを開催。これまでの活動の一区切りとして、委員会のマニフェストと前述のイメージマップや事業化に向けたステップなどをまとめたプロモーションパンフットを作成し、D-8が考える「ジャパンデザインミュージアム構想」について研究発表を行った。
さらに2007年〜2009年にかけて、世界各国のデザイン・ミュージアムの事例を元に、日本にデザイン・ミュージアムをつくる意義や、デザインの美的価値や情報伝達のあり方などを語り合う「デザイン・ミュージアム・カフェ」(全6回)を開催するなど、プロセスに掲げた第一段階である「リサーチ」を実施しながら、知の蓄積を行っていった。

 

「DESIGNふたつの時代 60s vs 00s」展

2010年には、パイロットミュージアムの第1弾として、「DESIGNふたつの時代 60s vs 00s」を開催。1964年の東京オリンピックや1970年の大阪万博により、日本のデザイン界に大きなうねりをもたらした60年代と現代を対比させ、そのコントラストを通じて「ジャパン・デザイン」の特性をあぶりだそうというのが企画の趣旨だ。
「現在、デザインの仕事は縦割りになっていますが、60年代のデザインは大阪万博に向けて、インダストリアルデザイン、グラフィック、建築、ファッションも含めて一体となって取り組んでいました。それが、万博が終わるとそれぞれの専門領域に分化していきました。そういう意味でも60年代は注目すべき時代だったと思います」(浅香さん)。
さらに2011年には展覧会と連動した書籍『DESIGNふたつの時代 60s VS 00s―ジャパンデザインミュージアム構想』(DNPアートコミュニケーションズ)を出版。見開きページの左右に60年代と2000年代のデザインをそれぞれ配置し、解説とともに記載している。たとえば、パッケージデザインの一例として、キッコーマンの卓上しょうゆ瓶とペットボトルの日本茶の対比が挙げられている。60年代にヒットした店頭用パッケージのまま食卓で使えるしょうゆ瓶は、それまで量り売りや一升瓶が当たり前だったしょうゆのパッケージの概念を一新させた。一方、1996年に登場した小型ペットボトル入りの緑茶飲料は、持ち歩いて気軽に水分補給するという新たな習慣を生み出すとともに、それまで急須で淹れていた日本茶とは一線を画す「無糖飲料」として人気を博し、さらに2000年になると加熱・冷蔵に対応したペットボトルが開発された。この二つを並べて展示することで、ライフスタイルの変遷とデザインの関係性が浮き彫となっている。
掲載されているのは出品作品だけでなく、他の作品や事例、戦後日本のデザイン史の考察なども加筆し、資料としての価値をより高めたものに仕上げている。

 

スモールミュージアムの実現に向けた活動

こうしてパイロットミュージアムの第1弾を終え、2012年からは、委員会の名称を「ジャパン デザインミュージアム設立研究委員会」と改称。次のステップである「スモールミュージアム」の実現に向けた検討会がスタートした。その一つが、小学校の廃校を活用することを想定した構想である。通常の展示スペースとは異なり、学校は教室単位で展開できるため、8団体が個別のテーマでの展示を行うことも、テーマごとに共同展示を行うことも可能だ。しかし、こうした施設を願いつつも巡り会えるかどうかは不明であるため、一つのパターンとしてしたためておきながら、ミュージアムとしてのコンテンツを掘り下げる活動を継続していくこととした。

 

D-8が考えるデザインミュージアムとは

D-8が考えるデザインミュージアムは、コレクションを独自にもつのではなく、企業や団体がもつアーカイブと必要に応じて連携することを想定しているという。
「冒頭でお話ししたように、われわれは『つなぐ』ということをコンセプトにしています。新しいデザインミュージアムは、何もかもアーカイブするのではなく、ネットワークでつながっていくようなかたちが求められているのではないかと思います。また、サインやディスプレイのように実物のアーカイブが難しいデザインもあるので、VR、AR、MRといったバーチャル化技術による再現性というものも加味していきたい」(浅香さん)。
また、21_21 DESIGN SIGHTの「日本のデザインミュージアム実現にむけて展」(2013年)の関連プログラムとして行ったトークイベント「D-8が語るデザインとミュージアム」で語られた意見も参考にしているという。 「このイベントにも出演されていた浅香嵩さんが『日本のデザインの地図』をつくるべきだと提唱してくれました。日本のデザインを地図で表すと、それはどのような地形で、どの方向に向かっているのか、あるいはその方向に行くにはどうすればいいのか、そうしたことをクリティックしていく場をつくることが、デザインミュージアムの重要な役目だと。それで、そういうものをつくろうということになりました」(洪さん)

 

ジャパンデザインのクロニクルとアナトミー

委員会が現在取り組んでいるのは、「ジャパンデザインのクロニクル(系譜図)」と「ジャパンデザインのアナトミー(解剖図)」の研究である。これは、「日本のデザインの地図」を実現するための研究で、2019年1月25日には「ジャパン デザインミュージアム構想」の研究発表会・ワークショップを開催することが決定している。
「クロニクル」は、2010年に発表した「DESIGNふたつの時代 60s vs 00s」展を土台にしながら、1950年代から現在までのデザインの系譜をまとめたものである。さらにそのデザインが生まれた時代の社会背景などを加えて深掘りしたのが「アナトミー」で、この二つのコンテンツを通じて、60年間のデザインの動向を浮き彫りにしながら、ジャパンデザインとは何かを探ろうという企画だ。
「ジャパンデザインとは、日本の暮らし・文化・産業に影響を与えたデザイン、あるいは日本の暮らし・文化・産業から影響を与えられたデザインこそがジャパンデザインだろうということで、みなさんの納得が得られました。それで、デザインの流れを絵巻物のように並べたクロニクルと、それを解剖して深掘りするアナトミーという2つの柱を、コンパクトにまとめて発表しようということになりました」(洪さん)

まず、それぞれの団体が代表的な作品を選出し、その特徴を評価する。それを全体ミーティングで発表しながら精査を重ね、同時に時代のキーワード、社会的な背景、ライフスタイルの変化など、アナトミーに必要な軸となる事象を選出していく。それらを作品と重ね合わせることにより、デザインが社会と生活とデザインが密接に関わっている様子が読み解けるようになる。
展示に向けた全体ミーティングは月に1〜2回。各団体から数名が参加し、夕方18時から数時間にわたり活発な議論が繰り広げられる。ひとくちに解剖すると言っても、各団体によって選出する事象が異なったり、時系列の流れが変わったりするなど、8団体に共通する流れを見出すキーワードの抽出は想像以上に困難で、多くの時間を要した。
キーワードが決まると、今度はその周りに該当するデザイン作品をはめ込み、その位置関係を調整していく。さらに実際に展示するサイズに合わせて見直したり、より効果的な見せ方を検討したりしながら具体的なアイデアを出し、固めていくという作業が繰り返され、現在は最終段階の調整に入っている。

完成したクロニクルとアナトミーは、今後ミュージアムが実現した際のパーマネントコレクションのコンテンツとして活用することを想定しているという。
「日本のデザインを概観するクロニクルと、それを深掘りしたアナトミーという二つのコンテンツを、D-8として自信のあるものに仕立てられれば、どこにデザインミュージアムができようと連携することができると思うのです。このような目線で日本のデザインをオーバービューすることは誰もやっていませんし、8団体だからできることなので、D-8の宝であり、資源としてこれから活用していく予定です」(洪さん)

 

現状の問題点と今後の展開

D-8の活動は、各団体からの年会費で運営されているが、ワーキンググループの活動のほとんどが手弁当で行われている。各団体が2年ごとの持ち回りで事務局運営を行っているが、会議室をもたない団体の場合は有料のスペースを借りる必要も出てくる。展覧会を開催する際は、その都度協賛金を募り、運営費に当てる。これらすべてを、デザイナーが行っているのである。
「もともとD-8はデザイン団体のサロンとしてできたものでした。けれども、デザインミュージアムをつくろうとするには、どうしても事業的なことに向かわざるを得ないので、ジレンマを抱えています。みんなデザイナーなので事業の専門家ではありませんし、ここまで足並みをそろえてやってこられたのは奇跡とも言えます」(洪さん)
ジャパン デザインミュージアム設立研究委員会は、準備委員会発足から13年が経過し、リソースの蓄積も着実に進んでいる。なかでもクロニクルとアナトミーという2つの研究成果は、今後の展開に大きく関わる重要なコンテンツで、研究発表会を終えた後は、大学などと連携しながら巡回展を行うことも検討されている。
製品であるデザインは、美術品のようにモノだけを並べるのではインパクトに欠けるが、「見るだけでおもしろいと感じるエンターテイメント性も持たせながら、単に事象を並べるだけではなく、デザインをクリティックする。そうすれば、今後デザインがどこに向かっていくべきかという指針にもなるし、誰かが国策を考えるとき、日本とはこういう国だという礎のような情報にもなるだろうと思っています」(洪さん)とのこと。
今後、新たな動きがあった際には、またレポートを追記していきたい。

 

 

 

D-8最新イベント
(ジャパンデザイン ミュージアム構想委員会 研究発表会)
のご案内

 

「ジャパン デザイン ミュージアム構想」研究発表会・ワークショップ

会 期:2019年1月25日(金)〜2月10日(日)10:00〜18:00
会 場:JIDAデザインミュージアム in AXIS 入場無料
テーマ:「戦後日本のデザインは、どのように成立し、
    どこに向かうのか?〜ジャパン デザインとは何かを探るワークショップ、トークショー(予定)」
主 催:日本デザイン団体協議会(D-8)

 

 

 

 

日本デザイン団体協議会(D-8)のアーカイブの所在

問い合わせ先
公益財団法人日本サインデザイン協会 事務局 http://www.sign.or.jp

 

HEARING & REPORT

どうなっているの?
この人たちのデザインアーカイブ

What's the deal? Design archive of these people

インテリアデザイナー

倉俣史朗  1934年生まれ*

北原進   1937年生まれ

大橋晃朗  1938年生まれ*

内田繁   1943年生まれ*

杉本貴志  1945年生まれ*

植木莞爾  1945年生まれ

北岡節男  1946年生まれ*

藤江和子  1947年生まれ

 

テキスタイルデザイナー

粟辻博   1929年生まれ*

 

CI

中西元男  1938年生まれ

 

家具職人

宮本茂紀  1937年生まれ NEW

調査対象については変更する可能性もあります。

調査対象(個人)は、2006年朝日新聞社刊『ニッポンをデザインしてきた巨匠たち』を参照し、すでに死去されている方などを含め選定しています。

*は死去されている方です。