日本のデザインアーカイブ実態調査
DESIGN ARCHIVE
University, Museum & Organization
JIDAデザインミュージアム
インタビュー01:2017年7月14日(火)17:30〜19:00
インタビュー02:2017年9月28日(木)14:00〜15:30
Description
前書き
JIDAデザインミュージアムは、公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会(JIDA)*が運営する、歴史的に価値のあるインダストリアルデザイン製品約1,300点を所蔵するミュージアム。1997年4月に開設した「JIDAデザインミュージアム1号館/信州新町」をメイン施設として、東京のJIDA事務局に併設されたギャラリー「JIDAデザインミュージアム in AXIS」、2012年に大阪デザインセンター内に開設した常設展示スペース「JIDAデザインミュージアム in 関西」、合計3つの展示スペースを有している。歴史的な価値のある工業製品とその関連資料の収集、コレクションの展示など、ミュージアムの運営はJIDAの会員であるデザイナーが行っている。
収集しているのは過去の製品だけではない。今現在、市販されているものの中から質の高いデザイン製品を選定し、それを記録・保存する「JIDAデザインミュージアムセレクション」を1999年から毎年実施。この事業により、ミュージアムのコレクションをさらに充実させた。
今回のインタビューは、今年で20周年を迎えた「JIDAデザインミュージアム1号館/信州新町」について、本事業の運営を支えるキーパーソンである伊奈史朗さんと大縄茂さんに、それぞれお話を伺った。
*公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会(JIDA)は、1952年に設立された、日本で唯一のインダストリアルデザインの職能集団。
Interview 1
インタビュー01
2017年7月14日(火)
取材場所:公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会(JIDA)
取材先:伊奈史朗さん(インダストリアルデザイナー、JIDAデザインミュージアム委員会ミュージアム運営部会およびセレクション事業部会委員)
インタビュアー:関康子、涌井彰子
ライティング:涌井彰子
デザインミュージアム開設の経緯
― 長野の信州新町の「ミュゼ蔵」にJIDAデザインミュージアム1号館が開館してから、今年でちょうど20年目を迎えたと伺いました。そもそも、デザインミュージアムを設立するに至ったのは、どのような経緯だったのでしょうか。
伊奈 ご存知の通り、工業製品の多くは年月の経過とともに廃棄されてしまいます。そのまま放っておいたら、優れたデザインを次世代に引き継ぐことができません。こうした状況を危惧したJIDA会員の有志メンバーが集まり、1993年に「デザインミュージアム構想委員会」が発足しました。当時は、JIDAの東日本ブロックの活動として始めたのですが、翌年にはJIDA全体の活動であるセンター委員会に格上げされ、名前も「デザインミュージアム委員会」に改めました。
最初に手がけたのは、とにかくモノを集めるということ。JIDAの会員だけでなく外部の方にも声をかけて、パーマネントコレクション(永久展示品)に値する、優れたデザイン製品の現物を寄贈していただき、それらをストックヤードに保存していくことでした。
また、1999年からは、JIDA会員や一般から推薦された製品の中から優れた製品を選定する「JIDAデザインミュージアムセレクション」という事業を毎年行い、選ばれた製品を寄贈してもらえるよう企業にお願いして、コレクションを充実させていきました。そして収集するだけでなく、セレクションした製品の紹介展やさまざまな企画展を開催したり、ときには美術館に貸し出したりしています。
― 1997年には長野の信州新町にデザインミュージアム1号館ができるわけですが、なぜ信州新町に開設することになったのですか。
伊奈 デザインミュージアム委員会の活動を始めた当初は、収集品を保管するスペースを確保することが先決でしたので、安く借りられるストックヤードを探すことに奔走していました。そんなときに、JIDA会員の方から長野県の信州新町に廃校になった小・中学校の校舎がストックヤードに適しているのではないか、という情報をJIDAの会員からもらったんです。それで、町役場の方に廃校や倉庫など、いろいろな場所を案内していただいた結果、1996年に元法務局出張所の建物をお借りすることになりました。現在のストックヤードは廃校になった小学校に移転し、教室2部屋を借りています。このように、ストックヤード探しのときから信州新町とは親密な関係性を築いていたのです。
― ミュージアムが入っている「ミュゼ蔵」は、酒蔵だった建物を改装したそうですね。
伊奈 はい。使われなくなった古い酒蔵を、長野県の補助金で改装して、町立の信州新町美術館の別館として再利用するという動きがあったんですね。それで、その中にデザインミュージアムをつくってはどうかと、声をかけていただいたのです。それで1階を信州新町美術館の別館、2階をJIDAデザインミュージアムにすることになりました。
じつはその2年前に、信州新町美術館をお借りして特別企画展を開催する機会がありました。それがとても好評で、JIDAの活動を理解していただき、ファンや支援者ができるきっかけにもなりました。そうした思い出のある美術館なので、今開催しているミュージアム開設20周年記念展は、ミュゼ蔵と信州新町美術館の2会場で開催することになったのです。
JIDAデザインミュージアムセレクション事業
― 先ほどうかがった、JIDAデザインミュージアムセレクションは、どのような選定基準で選ばれるのですか。
伊奈 選定基準は、高度なデザイン性、コンセプトの革新性、新技術の提案力、環境への配慮、新たなスタイリング提案、という5項目です。セレクションの図録を毎回つくっているのですが、その中の製品紹介ページには、どの点を評価されたのかがひと目でわかるように、選定基準の要素をマトリクスにして掲載しています。
― グッドデザイン賞との違いは、どういった点でしょうか。
伊奈 グッドデザイン賞は、各企業が持ち込んだものの中から選ぶのに対して、われわれの場合はデザイナー自身が優れたデザインだと思うものを探してくる点です。一番大きな違いは、われわれの目的が現物を保存するためだということですね。
― 工業製品の場合、作動やインターフェイス(動き方)などもデザインに含まれますが、そうした部分の選定はどのように行われているのでしょうか。
伊奈 そこが一番難しいところなんです。動きのある製品は、写真だけでなく現物を見ないとわかりませんから、選定する際には店頭に行って、実際に現物を見てもらうようにお願いしています。じつは、セレクションの対象を「現在販売されているもの」としているのは、現物を見て確認できるからなんです。ただ、クルマのように走らせて性能がいいかどうかというところまでは評価できませんので、どちらかというとデザインの造形にウェイトを置いています。ただし、選定するのはインダストリアルデザインの専門家であるデザイナーですから、単にカタチだけに走ったデザインなのか、機能性を考えたうえでのカタチなのかは、ある程度わかります。
― セレクションに選ばれた製品は、すべて寄贈してもらえるのですか。
伊奈 ご寄贈いただけないものもあります。ですから、その年にセレクションした全製品の写真、デザイナーの意図、選定理由、寄贈の有無などを収録した図録をつくって、記録として残すようにしています。つまり、この図録はそのままアーカイブになっているのです。
インダストリアルデザインの展示の難しさ
― 信州新町のミュージアムは、常設展のほかにも定期的に企画展を行っているのですか。
伊奈 企画展示は年1〜2回開催しています。毎年行っている企画展は、JIDAデザインミュージアムセレクションで選定した製品の紹介展で、その合間にもうひとつ開催することもあります。今年はデザインミュージアム1号館を開設して20周年なので、「美しく豊かな暮らしとデザイン'90s vs '10s、そして」というタイトルで、1990年代と20年後の2010年代の暮らしにまつわるモノの変化をデザインの視点で捉える記念展を開催しています。
― 以前、川上元美さんにインダストリアルデザインの展示の仕方について伺ったことがあります。そのときは、インダストリアルデザインは生活物だから、そのままモノを置くだけでなく、時代性やデザイナーの人生などとリンクさせるような工夫が必要で、ひじょうに難しいジャンルだとおっしゃっていました。
伊奈 おっしゃる通りですね。ひとつのモノを展示するときには、その時代の雰囲気を感じ取れるような空間をつくってあげると、そういう時代だったから、こういうスタイルになったんだなと、一般の人にも受け入れてもらえると思います。本当はそういうミュージアムであるべきだと思うのですが、残念ながらそこまではできていません。理想的なのは、その時代の代表的なものをひとつ展示して、時代と空間が一緒になったような展示だと思いますね。
ストックヤードの管理状況
― 毎年、セレクションに選ばれた製品が集まっているわけですから、この20年で膨大な量になっていますよね。ストックヤードの整理は、どのようにされているんですか。
伊奈 ひどい状態ではあるのですが、最低限、カテゴリー別には分けてあります。また、現物だけでなく、カタログや仕様書などの二次資料もなるべく保管しようとしているんです。たとえば、現物を寄贈していただいたときには、必ずコンセプトやデザイナーの考えをまとめたパネルを、二次資料として保存するようにしています。そうすれば、次にその製品を展示するとき、パネルに書かれた内容を活用することができるので。ただ、その整理がなかなかままならないんですよね。
― 整理をするのも費用がかかりますよね。それは、デザインミュージアム委員会の人たちがされているのですか。
伊奈 そうなんです。場所が遠いので、交通費は委員会の費用で負担しています。ただ、委員会の予算はJIDAの会費からはなかなか取れないので「JIDAデザインミュージアム支援会」という会を設けて支援金を募り、そこから運営費を賄っています。
― 大変な作業でしょうが、膨大なモノに触れられる機会はとても貴重ですね。たとえば教育機関と連携して、インダストリアルデザインを学んでいる学生に、手伝ってもらうことはできないのでしょうか。
伊奈 一度試みたことがあるのですが断念しました。今の大学生は授業とアルバイトでとても忙しいんですね。けれども、熱心な学生もいます。私が展示のガイド役をすることがあるのですが、先日も北陸のほうからわざわざ来てくれた大学生を案内しました。そして、デザインの説明をするだけでなく、実際に手に取って昔の製品と新製品の重さの違いを感じてもらったりするんですね。工業デザインというのは、機能、使いやすさ、形状の美しさをと併せもって完成品です。見るだけではわからなかったことが、ちょっと動かすだけでものすごく理解できる。それを伝えることが大事なことだと思います。
課題は「後継者」と「増え続けるモノ」
― ミュージアムの運営を長く続けていくには、後継者の育成も重要ではありませんか。
伊奈 まさにその通りで、何事もすべて人だなと思うんですよ。最低限の報酬が伴えば、やってくれる人はいると思いますが、そうではなくて本当にデザインが好きで、これを趣味にしてもいいという人が現れない限り、なかなか難しいと思っています。極端なことを言えば、逆に誰が引き継いでも運営しやすいように、環境を整えることが必要かもしれないとも思うのです。たとえば、どういうコレクションがあって、それぞれがどこに保存されているのかをデータ化する。最低限それだけできていれば、あるテーマで展示をやりたいと思ったとき、キーワードを入れれば該当するものが出てくるようになります。そうすれば、ある程度のことはできますから。
― すでにデータ化されているんですか。
伊奈 とりあえずのかたちですが、最低限の情報はデータ化してあります。
― それはすごいですね。後継者の問題のほかに、今後の課題はありますか。
伊奈 もうひとつの課題は、増え続けていくモノをどうするかということです。セレクションで毎年40点はご寄贈いただくので、モノがどんどん増えていくんですね。これまでのように、なんでもいただくのではなく、選定した中から数点だけパーマネントとして残す、という方向に変えないといけないのかなとも思うんですね。たとえば、2014年からセレクションの中でも特に優れた製品に贈るゴールドセレクション賞を設けたので、こういうものだけを寄贈していただくようにするとか。
― 現状のストックヤードには、まだ余裕があるんでしょうか。
伊奈 もうないですね。場所を変えればあるにはあるんですよ。同じ信州新町にある酒蔵を安く貸してもらえる話もありますが、そこに移って広いスペースができると、またどんどん集めるようになるでしょう。集めたら集めた分だけ、それを管理するためのお金がかかりますから、それを本当に一協会が維持できるのだろうかという問題があります。
― さらにセレクションが必要ということですね。
伊奈 おかげさまで、JIDAデザインミュージアムセレクションの図録も、18号になりました。ちょうどこれから19号がスタートして、再来年は20号ですからひとつの節目になります。それを機にまた次のことを考えないといけないと思っています。
― 大変なことは多々あると思いますが、継続するということがもっとも重要なことなので、今後も続けてくださることを願っています。本日は、ありがとうございました。
Interview 2
インタビュー02
2017年9月28日(木)
取材場所:公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会
取材先:大縄茂さん(有限会社デザインオフィス ジー・ワン代表、JIDAデザインミュージアム委員会ミュージアム運営部会 研究・記録チームリーダー)
インタビュアー:関康子、涌井彰子
ライティング:涌井彰子
廃棄の危機にある現物の収集からスタート
― 前回、デザインミュージアム委員会の活動について、伊奈史朗さんに取材させていただいたのですが、アーカイブを担当されている大縄さんに、改めてお話を伺いたいと思います。JIDAでインダストリアルデザインのアーカイブを残そうという議論が交されたのは、20年以上前とのことですが、何かきっかけがあったのでしょうか。
大縄 その頃の想いが現在の活動の根底にあるのですが、この時期、私はまだミュージアム活動に参加していませんでしたので、JIDAミュージアム活動立ち上げのお一人、長坂亘さん(理事、事務局長歴任)からお聞きしたエピソードを紹介します。1992年に、JIDAの40周年事業で大規模な展示をしたとき、企業や個人の方から展示するモノをお借りしたことがあったのですが、展示が終わって返却するとき、ひじょうに後ろ髪を引かれる思いだったそうです。というのは、企業の場合、ある一定の期間が過ぎた製品は資産計上したくないという理由から、廃棄されてしまうことが多いんです。また、個人の方も今後どうなるかわかりません。それで、返さなければいけないけれど、返してしまったら終わりかもしれない、と葛藤していました。そんなことがあったので、JIDAが先頭に立って、僕たちデザイナーがやってきた仕事を残さなくてはいけないと考えたわけです。それで、最初にモノを収集する活動から始まりました。
― デザインは完成品だけでなく、その背景にあるプロセスや考え方なども重要だと思いますが、そういったものも残されているのでしょうか。
大縄 現在市販されている製品の中から優れたデザインの製品を選出する、JIDAデザインミュージアムセレクションという事業があって、毎回選ばれた製品を紹介する展覧会をAXISギャラリーで行っています。そこでは、セレクションで高い評価を受けた製品の担当デザイナーを招いた、デザインフォーラムも開催しているんです。デザイン開発にまつわる貴重な話が聞けるので、その内容を記録して残すという作業を昨年から始めています。
また、その展示に使用した製品の解説パネルも保存しています。なかにはアイデアのスケッチから、レンダリング、製品までの流れを解説したパネルを作成してくださる企業もありますので、今おっしゃっていたデザインのプロセスなども、パネル程度であれば残しているという状況ですね。
また、セレクションに参加される企業には、デザイナーの名前や製品に関する情報など、いろいろな書類を書いていただくのですが、それをファイリングしていくとそれなりのアーカイブになるんです。
― セレクションとは別に、コレクターの方などからも寄贈を募っているんですか。
大縄 少し前までは無条件でいただいていたのですが、今はもうストックヤードが満杯なんです。そのようなことがネックになり整理が必要となりました。時代性を反映させたもの、話題性やエポック性が高いもの、造形的な美しさなど、インダストリアルデザイン史的にも照らし合わせ、より高い条件で収蔵品の見直しを行っています。
― ストックヤードのスペースは、あとどれくらいもちそうですか。
大縄 これで余裕ができたのですが、それでも毎年確実に増えていくので、もう4〜5年で一杯じゃないかなと。現収蔵品や今後の寄贈品については、より精査し選別しなければなりません。今は処分するのにも十万円単位のお金がかかるので大変です。これと並行し収納の仕方も工夫しなければいけないんですが、僕らも仕事をしながら土日を使ってやっているので、なかなかはかどらないというのが現実です。
― 企業の歴史館として製品や技術を公開しているところはあっても、インダストリアルデザインのアーカイブとして、プロダクトや資料などをコレクションしている企業は見当たらないのですが。
大縄 インターネットのサイトで、デザインの切り口で製品を紹介するページを設けている企業はありますが、デザインの過程を実際に展示しているような施設はないと思います。企業にしてみれば、デザインだけで売り上げているわけではないのだから、そこだけ特別扱いできない、ということではないでしょうか。ただ、美術館がデザインにフォーカスを当てた企画展をやるときは、いろいろな企業が協力的だという話は聞いています。
プロダクトデザインにフォーカスしたセレクション
― 近年のグッドデザイン賞は、プロダクトデザインだけでなく、仕組みや芸能活動などジャンルが幅広くなっていますが、純粋にプロダクトデザインだけのアワードをJIDAでやろうという話はないのですか。
大縄 アワードという名前は付いていませんが、4年ほど前にJIDAミュージアムセレクションの中にゴールドセレクション賞という枠をつくったんです。ゴールドの受賞数を決めているわけではありませんが、これまではセレクション選定品が40〜50点程度で、そのうち4〜5点がゴールドセレクション賞を受賞しています。この賞が実質的なJIDAアワードと考えていいのかもしれません。
― グッドデザイン賞よりも、こちらのほうがドイツのレッドドット・デザイン賞に近い感じですね。
大縄 そうだと思います。昨年、キヤノンのデザインセンター長がセレクション選定品の展示を見ご覧になって、自分は純粋にプロダクトとしてのデザイン的アプローチを推進する方針でやってきたので、このようなデザインにフォーカスを当てて選んでいるのがよくわかる展示を見てほっとした、とおっしゃっていました。
― 海外では、JIDAデザインミュージアムのような施設は、存在しているのでしょうか。
大縄 当初より、デザイナーが運営しているミュージアムは僕らだけだという意気込みでしたし、1号館グランドオープン(1997年7月)の際に来館いただいたICSID(国際インダストリアルデザイン団体協議会)会長の祝辞でも「デザイナーが運営するミュージアムは世界初」とおっしゃっていただきましたが、実際にはわからないですね。
セレクション事業では図録を出版し、国内外の美術館やデザイン機関やデザイン系大学へ無料配布して、われわれの情報を発信しているものの、海外の、特に小さな規模で運営するミュージアムの状況は掴んでいません。ですから、デザイナーが運営しているという同様の施設があるのかもしれないし、まったくないのかもしれません。
デザインミュージアムの運営状況
― 信州新町のミュージアムは、年間で何回ぐらいの展示企画がありますか。また、展示数は何点ぐらいでしょうか。
大縄 1年に2〜3回ですね。展示数は50点弱ぐらい。常設展示のほかに企画展として毎年セレクション展をやっています。常設展についてもずっと同じ展示ではありませんから、内容を入れ替えるときに半分企画展のような扱いで開催することもあります。たとえば、今までは50年代の展示だったから次は60年代にするとか、あるいは50年代から2000年代までの代表的なものを揃えるとか。常設展は収蔵品だけを展示していますが、企画展のときは企業や個人の方からモノをお借りすることもあります。
― インダストリアルデザインはアートのように単体で鑑賞するものではなく、生活環境の中に存在する道具のひとつなので、展示の仕方が難しくはありませんか。
大縄 みなさんがご存知なモノだけに、どう見せればいいのか非常に難しいところですね。再来年にセレクション事業が20周年を迎えるので、記念展をやろうとしているのですが、田中一雄理事長が「単純に古いモノを並べただけでは、ああこれ昔に使っていたな、と思うだけでデザインを見てもらえなくなってしまう」と危惧していました。ですから、僕らが評価したカタチがきちんと見えるような照明の当て方や、パネルのつくりかたを工夫しようとしています。
― ミュージアムには、常駐スタッフはいるのですか。
大縄 常駐している人はいません。弊館が入る施設は2階建で、ミュージアムは2階に、1階は長野市が運営する信州新町美術館のギャラリーとカフェが入っていますので、店の方に2階の開場錠もお願いしています。ですから、信州新町美術館のサービスに相乗りさせてもらって、なんとか運営できているという状況なんですね。
― ミュージアムは展示などを通じて社会に知らしめるメディアでもありますが、デザインに対する興味や意識を高めるような普及活動などはされていますか。
大縄 直接的な普及啓発というよりは、デザイン教育を通じて結果として啓発につながっていくような活動のほうが多いと思います。いろいろなワークショップを開いたりしているほか、長野では毎年JIDAミュージアムフェスティバルという大学生向けのイベントを開催しています。そこでは、デザインについての話し合いや、メーカーに持っていくポートフォリオの相談といった現実的なことも含めて、対話しながら支援するというようなことをやっています。
― デザインミュージアムの創設から20年。プロダクトの収集、展示、セレクション、デザイン教育、と進化を重ねてきた様子がよくわかりました。本日は、ありがとうございました。
JIDAデザインミュージアムのアーカイブの所在
問い合わせ先
JIDAデザインミュージアム http://jida-museum.jp
公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会(JIDA) http://www.jida.or.jp