東京国立近代美術館、NPO法人建築思考プラットフォーム主催

PASS the BATON

倉俣史朗を語ろう

シンポジウム報告レポート

 

2019年11月10日、東京国立近代美術館とNPO法人建築思考プラットフォーム(PLAT)主催によるシンポジウム「PASS the BATON 倉俣史朗を語ろう」が開催されました。約170席はすぐに満席。1991年に急逝した倉俣史朗が今なお多くの人々の心に刻まれていることの証です。
プログラムは3部構成で進行、以下レポートです。

 

会場風景

 

 

 

Program.01

レクチャー
「クロニクル 倉俣史朗の仕事」

近藤康夫

 

 

 

 

1980年代後半にクラマタデザイン事務所のスタッフであった近藤康夫さんが、時間軸に沿って倉俣デザインを、特に今や現存していないインテリア・空間デザインを中心に解説。今回初公開となった倉俣さんが子ども時代に暮らした理研の社宅、戦後、桑沢デザイン研究所での学びの時代から独立までの歩み、倉俣デザインの源泉となったアートやデザインを発端に、60年代、70年代、80年代以降の作品を近藤さんの視点から解説して下さった。

1960年代の特徴は、宇野亜喜良や横尾忠則らアーティストとのコラボレーション。高松次郎と共働した「サパークラブ・カッサドール」、「クラブ・ジャッド」(下)などは60年代代表的なインテリア作品として紹介。倉俣さんが生涯興味を持ち続けたデザインモチーフである「引き出し、階段、時計」などの作品に加え、倉俣デザインの特徴である無重力、物質の消失、透明性、浮遊感、光の探求も60年代から見ることができる。

 

 

1. サパークラブ、カッサドール

 

1970年代日本の経済成長が落ち着くなか、倉俣さんは、知的なミニマルなデザインを探求するように。その過程で偶然性を取り込んだ照明「オバQ」、透明性を追求した「ガラスの椅子」など、生涯を通した代表作が誕生。一方、インテリアでは70年代半ばから始まった「ISSEY MIYAKE」(下)のショップデザインは亡くなる直前まで取り組むことに。

 

 

2. ISSEY MIYAKE 青山本店

 

1980年代以降。1981年にエットレ・ソットサスからの依頼でイタリア・ミラノ発のデザイン運動「メンフィス」に参加。これを機に倉俣デザインも大きく変化した。例えば、テラゾ、ひび割れガラス、アクリル、アルマイト、OSBなど新しい素材と出会いながら、新しい境地を開拓。「ミス・ブランチ」に代表される空前絶後なデザインの数々を発表。インテリアでも「ISSEY MIYAKE」のショップに加え、「ルッキーノ」「オブローモフ」「スパイラル」が誕生。「ラピュタ」は遺作となった。
まとめとして近藤さんが語った「倉俣さんがつくるものは、1991年で止まっているんですが、それ以降も、倉俣作品からインスピレーションを得たデザインが生まれていると思う」というコメントが印象的だった。

 

 

3. ルッキーノ

 

 

 

 

 

Program.02

プレゼンテーション
「倉俣史朗との出合い」

保坂健二朗 / 田川欣哉 / 田根剛 / 田村奈穂

 

倉俣さんを直接知らない40代のクリエイターやキュレーターたちが倉俣作品とどのように出合い、どう考えるか? 4人は気になる作品を挙げながらプレゼンテーションした。東京国立近代美術館の主任研究員の保坂さんは、倉俣作品の独自の世界観に基づき、アートとデザインという両義性について、デザインエンジニアの田川さんは倉俣作品を生んだ創造の現場、事務所の在り方について、建築家の田根さんはあえて作品ではなくスケッチやコンセプトモデルをあげながら倉俣作品から学んだデザインの意味を、デザイナーの田村さんは倉俣作品の純粋性に潜む意思の強さについて語った。そこからは4人それぞれのデザインへの眼差しも読み取れた。

 

 

 

 

 

 

Program.03

ラウンドテーブル・ディスカッション
「Pass the Baton 倉俣史朗を語ろう」

五十嵐久枝 / 桑山秀康 / 田川欣哉 / 田根剛 / 田村奈穂 / 保坂健二朗
進行:関康子

 

ディスカッションは、今回初公開となった生前の倉俣さんの仕事場の写真を背景に、先の4人に加え、クラマタデザイン事務所の元スタッフでありインテリアデザイナーの桑山秀康さん(70年代半ば)と五十嵐久枝さん(80年代半ば以降)が参加して進行。
桑山さんから「ガラスの椅子」誕生のエピソード、五十嵐さんからは晩年の倉俣さんの仕事ぶりなどが語られた。その後、4人から元スタッフの2人に対する質問を起点にディスカッションが進んだ。中でも興味深かったことは、沖健次さん、桑山さん、近藤さん、榎本文夫さん、五十嵐さんら数多くのインテリアデザイナーが登場したクラマタデザイン事務所の職場環境や仕事の進め方、職人から写真家、アーティストから事業家まで、その幅広い交流を通して語られる倉俣さんの人柄や人間性についてだった。

 

 

文責/関康子

 

クレジット

作品写真/藤塚光政

会場写真/今村 翔

 

 

click click click